70年代後半にイギリスからパンク、ニュー・ウェーブという言葉が発祥し、そのムーブメントは全世界に飛び火した。もちろん日本にも入り込んできたのだが、日本ではファッションが先行して流行してしまった。日本でもパンク・バンドは登場するのだが、本来のパンク(ニュー・ウエーブ)の意味は甚だしく彎曲して解釈されていた。そもそもは「秩序を壊す」ということが始まりであったのだが、それが「破壊」というふうに極端に解釈されてしまった。
従って、日本のマスコミがパンクという言葉を使うときには60年代のロックという言葉がそうであったように「不良」の代名詞として使われた。日本にセックス・ピストルズの曲からヒントを得てバンド名をつけた「アナーキー」なるバンドがいたのだが、彼らはアナーキーを「穴あき」すなわちパンク・バンドのボロボロの穴あきファッションのことだと思っていた。という悲しくて笑えないエピソードもあるくらい日本のパンク・バンドはおままごとだった。
で、ポリスだが、なぜかデビュー当時ポリスもパンク・バンドとして紹介された。かなり速いビートで演奏するのでそうなったのかもしれないが、あきらかに他のバンドとは違っていた。何しろ演奏力の水準が著しく高い。そしてメンバーの年齢も当時で28才と他のバンドに比べて高かった(ギターのアンディ・サマーズはきっと35才ぐらいだったはず。だって16才の時にアニマルズのギターとして初来日しているから)。
この頃よくライバル・バンドというのを登場させて比較するのが流行っていたのだが、ポリスのライバルはクラッシュとUB40だった。ポリスの曲のベースにもレゲエがあったのでUB40は分かるのだが、『LONDON CALLING』のヒット曲でお馴染みのクラッシュもレゲエ風の曲があるとはいうものの、演奏力があまりにもなくライバルと呼ぶには程遠いものと思っていた(実際、ポリスの後に来日公演をするが演奏力はトホホだった)。
ポリスの来日は彼らの2枚目のアルバム『レッガタ・デ・ブロンク』が発売されてすぐの時期で一番勢いのある時だった。会場の中野サンプラザは早い時間から当時のマスコミが喜びそうな、いわゆる奇抜なファッションを身にまとった若者で溢れかえっていた。とにかくパンクという言葉が日本で認知されたばかりで、非常にタイムリーな来日だった。何しろ彼らの来日はNHKの夜7時のニュースで取り上げられたほどだった。
ステージ・セットは、楽器とアンプだけというとにかくシンプルなものだった。場内が暗転してメンバーがステージそでから出てくるともう会場は完全にオーバー・ヒート。しかもオープニングの曲が『NEXT TO YOU』という激しく速いビートの曲なのでもう収まりがつかない。演奏する曲はすべて知っている曲ばかり。スティングのカン高い歌声、全ての隙間を埋め尽くすようなスチュワート・コープランドのドラミング。激しいリズムの中で職人ばりに繊細なギター・ワークを披露するアンディ・サマーズ。この3人はあまりにウマすぎる。と言うのが私のひと言での感想だ。
曲は、パンクぽいビートのある『HOLE IN MY LIFE』など観客もリズムをとることができないほどの速いリズムでの演奏を見せてくれる。しかし、ポリスの最大の特色はレゲエを取り入れた曲『WALKIN' ON THE MOON』『SO LONELY』などでそのアレンジ力はとてもパンク・バンドの域ではなかった。
そして、最大の聴きどころは『BED TOO BIG WITHOUT YOU』の間奏で見せてくれた個々のテクニックと3人のアンサンブル。これはもうほぼプログレやジャズに近いものがあって、今考えるとポリス解散後の3人のそれぞれの進んだ方向を十分予測させるものだったような気がする。
コンサート自体は90分程度だったと思うが、アンコールの曲『BORN IN THE 50'S』で初来日公演の最初の夜を締めくくった。コンサート終了後、これほど満足感を顔の表情に出している観客が多いコンサートはそうなかったと思う。
エピソードを少し。
来日してからポリス側からスタンディング・ギグ(コンサート)をやりたいという申し出があり、主催者はあちこちの会場を探すがどこにもイスなしでコンサートをやらせてくれる会場はなかった。(当時はBLITZやZEPPのような所はなかった)そしてやっと探したのが京都、京大の講堂だった。
そしておそらく日本で初めてのロック・バンドによるスタンディングでのコンサートが行なわれたのである。コンサートは大パニック、途中演奏はなんども中断するは、学生主催者がステージに上がり演説するは(スティングがコップの水を学生の頭からかけていたが)の大騒ぎ。絵に描いたようなパンク・バンドの演奏が行なわれたのだった。
スティングがインタビュアーの「日本の観客はどうでしたか?」という面白くも何ともない質問にこう答えた。「ステージに出て行ったら観客の頭が全員、黒かったので恐かった」
■演奏曲目■順不同
-NEXT TO YOU
-BRING ON THE NIGHT
-MESSAGE IN A BOTTLE
-WALKIN' ON THE MOON
-SO LONELY
-VISION OF THE NIGHT
-HOLE IN MY LIFE
-CAN'T STAND LOSING YOU
-ROXANNE
-TRUTH HITS EVERYBODY
-DRIVEN TO TEARS
-BED TOO BIG WITHOUT YOU
-BORN IN THE 50'S
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