YES / 1973.3.9 / 渋谷公会堂

この年、ロックバンドとしての来日はイエスが最初だったのではないかと思います。この後、ユーライア・ヒープ、デビッド・ボウイ、ハンブル・パイ、ベック、ボガート&アピスとこの年も来日ラッシュになります。
特に、ユーライア・ヒープの来日はイエスとほぼ同時期であったため、「神VS悪魔」の対決などといわれ音楽雑誌を中心に前煽りされていました。
しかし、ユーライア・ヒープのライブはイエスの素晴らしさには程遠く、もし勝負づけするのであれば、10:0というほどイエスの圧勝でした。
イエスは前年「イエス・ソングス」というアナログ盤で3枚組のライブ・アルバムをリリースしていました。そのライブ・アルバムがあまりに素晴らしかったので、来日公演は相当期待されていました。
実際、演奏はほぼ「イエス・ソングス」の再現で、各メンバーの細かなテクニックを垣間見ることができました。来日メンバーは5人で、ボーカル:ジョン・アンダーソン、ギター:スティーヴ・ハウ、ベース:クリス・スクワイアー、キーボード:リック・ウェイクマン、ドラム:アラン・ホワイト。
当時の私の記憶を探ると、ドラムがビル・ブラッフォードならもっと良かったのにという印象を持っていたと思います。アラン・ホワイトはどうもスタジオ・ミュージシャンの匂いがしてロックという香りがしなかったという印象を持っていたと思います。それを割り引いても、イエスの演奏は素晴らしいもので、後まで語り草になるものでした。
場内の明かりがフェード・アウトで消えていくと、ストラビンスキーの「火の鳥」が流れてきます。徐々に曲が盛り上がった頃には、メンバー5人が暗いステージの上でスタンバイしています。
カウントもなしに、いきなりオープニングは『シベリアン・カトゥール』。全く「イエス・ソングス」の再現。生身のメンバーが演奏している姿はレコードからは全く想像できないものでした。ジョン・アンダーソンは小柄で線が細い感じ。クリス・スクワイアーはものすごい長身で190センチはゆうにありそう。リック・ウェイクマンは引きずらんばかりのスパンコールのマントをまとっています。スティーヴ・ハウは神経質そうに猫背でギターを弾いています。スティーヴはジャズぽいセミ・アコのギターを持っているものの、彼の前にはギター・スタンドが3本セットしてあり、曲の途中でも弾き分けます。
演奏は完璧に計算されているのでしょう。テープでは?と思うほど「イエス・ソングス」と同じです。要所要所に各メンバーのソロ・パートが盛り込まれていて、リック・ウェイクマンのソロは壮大かつ大袈裟でまさにこれぞプログレという感じ。スティーヴ・ハウは「イエス・ソングス」の中では『ムード・フォー・ア・デイ』1曲でしたが、他に『クラップ』も披露し、クラシック・ギターの腕前も見せつけてくれました。
演奏時間はおおよそ、2時間20分。各メンバーのソロ・パートでも全く間のびすることのない完璧なまでのイエス・ワールドでした。
イエスの曲は変則拍子も多いのですが、ベースが7拍子、ギターが5拍子で演奏するというまさに神業的なものもあり、プログレの醍醐味を十分堪能させてくれました。
ご存知のように、この後のイエスは頭デッカチになりすぎ、より難解な方向に進んでいき、メンバー同士の音楽性の違いという、ロック・バンドの定番ともいえる理由で解散を余儀なくされます。
80年代に新生イエスとして一瞬、注目を浴びるのですが、イエスが存在していた意味を大きくアピールできたのが、この時期の活動だったと思います。
私は、本当に良い時代を体験できたと思います。
■演奏曲目■
-オープニング(火の鳥)
-シベリアン・カトゥール
-アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル
-燃える朝焼け
-カラー・オブ・ザ・レインボー
-ジョン・アンダーソン・ソロ〜さくらさくら
-スティーヴ・ハウ・ソロ
〜ムード・フォー・アーデイ〜クラップ
-アンド・ユー・アンド・アイ
-危機
-リック・ウェイクマン・ソロ〜ハレルヤ
-ラウンド・アバウト
アンコール:
-ユアーズ・イズ・ノー・ディスグレイス
-スターシップ・トゥルーパー
photo by Kimio Yokohataさん
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1972年に発表されたこのアルバム「ハーヴェスト」はニール・ヤングにとって一番商業的な成功したものです。ロック系としては珍しく「孤独の旅路」は全米シングルチャートで1位を獲得しています。
この1972年は日本のロック・シーンにおいて、一番多感な時期だっといえます。外国人アーティストの公演が増え、海外の生の演奏に触れる機会が多くなった年です。ニール・ヤングは日本のミュージシャンに多大な影響を与えました。一番大きく影響を受けたのは吉田拓郎だったでしょう。髪型からファッションから曲風まで全てにおいて影響を受け、日本のニール・ヤングの称号を受けたほどです。
ニール・ヤングはカナダの出身者。アメリカに渡り、バッファロー・スプリングフィールドというバンドで成功を収め、それなりに知名度はあったものの本格的に知名度が上がったのは、同じバッファロー・スプリングフィールド出身のスティーブン・スティルスが結成したCS&Nことクロスビー、スティルス&ナッシュに加入してからでした。
CSN&Yとなった4人は伝説的なロック・イベント、ウッドストック(1969年)にも出演、その地位を不動のものにしました。その後このグループは個々にソロ・アルバムを発表し、大成功をおさめます。ニール・ヤング自身もこの「ハーヴェスト」の前に「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」をリリースし注目されます。期待された第2弾のアルバムが「ハーヴェスト」でした。
全10曲からなるこのアルバムはニール・ヤングの才能の全てが凝縮された仕上がりになっています。ギター1本で弾き語る曲、オーケストラをバックにした曲、エレクトリック・サウンドで押し迫る曲など様々です。どの曲の歌詞にもメッセージ性が多分にあるので、もし聴かれる人は日本盤で歌詞対訳のついているものをお薦めします。
シングル・カットされた「孤独の旅路」「オールド・マン」も素晴らしいのですが、「アラバマ」「ダメージ・ダン」なども歌詞、曲ともに興味深いものがあり必聴です。しかし圧巻なのは最終曲の「歌う言葉」でしょう。変則リズムでゆったりと延々と繰り広げられる世界は、まさにニール・ヤングそのものです。決して上手いとはいえないギター・テクニックですが味わい深い個性を出しています。この曲は「JOURNEY THROUGH THE PAST」というマイナーな映画の中でも使われていたのですが、このサントラ盤では20分近くの曲として再現されています。
「ハーヴェスト」を「ドラッグ・アルバム」と称した批評家が当時いましたが、あながち間違ってもいないような気がします。
元気なだけを売りものにしかできないアメリカン・アーティストの中で数少ない「哀しみ」を表現できるアメリカ系アーティスト、ニール・ヤング。ぜひ体験していただきたいと思います。
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Lee Ji Yun / イ・ジヨン

全く知らないアーティストを教えてもらい、そのアーティストが自分の好みだったりすることが一番、音楽が好きで良かったなぁ、と思う時です。
このイ・ジヨンも私の中では全く存在すらしないシンガーでした。私のホームページの掲示板で常連で書き込みいただいているMorris.さんより話題にあがり、気にはなっていたものでした。同じく常連のすいるさんがイ・ジヨン来日のおりに通訳をやったという事実が判明するにいたって、もうこれはどうしても聴いてみたいという衝動にかられました。1989年頃のレコードなのでどうしたものかと思っていた矢先に紹介者でもあり、熱烈なファンでもあるMorris.さんから音源が届くという嬉しいハプニングがあり、いよいよ耳にすることができました。
アルバムは18曲が収録されているところから見ると、Morris.さん解説によるところの1st.2nd.アルバムを合体させた物なのかもしれません。
アルバムを聴いてまず大変新鮮な音楽だという印象を受けました。というのは最近のKOREAN POPSと違って、青筋を立てて熱唱するような攻撃性のシンガーではないからです。ユーロ・ビート、テクノ・ビート全盛のKOREAN POPSから入門した私にはちょっとした驚きでした。
誰それのよう・・・という表現は好きではないし、アーティストに失礼だと思うんです。
しかし、今回イ・ジヨンを紹介するにあったっては、それらの表現を使う方が分かりやすいかもしれないので、あえてそうしてみます。
1曲目の「クフロン(その後では)」を始め、彼女の歌声は透明感がありながら存在感もあるという不思議なものです。ある曲では、オリビア・ニュートン・ジョン、ある曲ではベルベット・アンダーグランドのニコのよう、スザンヌ・ヴェガのようでもあり、今井美樹のようでもある。というようにいろいろなイ・ジヨンが存在します。音楽ファンでない方には、分かりにくい例えですが、もしかすると彼女はKOREAN POPS界において貴重な存在なのかもしれません。
私の韓国音楽事情の印象は、日本と比べると歌唱力がないと通用しないということがあります。その点、彼女は特別に歌唱力があるとは言い難いのですが、これだけ情景を思い浮かべることができるシンガーは韓国にはいないかもしれません。(もちろん、韓国のシンガーのことを全て知っていて言うのではありませんが)雨の日に家で聴くも良し、晴れの日に車の中で聴くも良し、まさに全天候型のシンガーと言えます。ビートルズの歌ではありませんが、空が青すぎて哀しい・・・そんな感じもするような歌い方です。
Morris.さんの話では、3rdアルバムをリリースした後、マネージャーと逃避行などのスキャンダルで表舞台から消え、数年後にカムバックするも泣かず飛ばず、今は人知れず、場末で歌っているとかの話もあるようです。
そんな話を聞きながら、アルバム・カバーの写真を見ると、どこか憂いのある薄幸な歌姫という感じがしてきます。
韓国にもアンニュイな(古い!)シンガーいる。ということを知って、ますますKOREAN POPSに注目しなくてはならなくなりました。
素敵なシンガーを紹介してくれた「Morris.」さん、そして、更なる興味を持たせてくれた「すいる」さんに深く感謝し、お礼を申し上げます。ありがとうございました。
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