
この年、ロックバンドとしての来日はイエスが最初だったのではないかと思います。この後、ユーライア・ヒープ、デビッド・ボウイ、ハンブル・パイ、ベック、ボガート&アピスとこの年も来日ラッシュになります。
特に、ユーライア・ヒープの来日はイエスとほぼ同時期であったため、「神VS悪魔」の対決などといわれ音楽雑誌を中心に前煽りされていました。
しかし、ユーライア・ヒープのライブはイエスの素晴らしさには程遠く、もし勝負づけするのであれば、10:0というほどイエスの圧勝でした。
イエスは前年「イエス・ソングス」というアナログ盤で3枚組のライブ・アルバムをリリースしていました。そのライブ・アルバムがあまりに素晴らしかったので、来日公演は相当期待されていました。
実際、演奏はほぼ「イエス・ソングス」の再現で、各メンバーの細かなテクニックを垣間見ることができました。来日メンバーは5人で、ボーカル:ジョン・アンダーソン、ギター:スティーヴ・ハウ、ベース:クリス・スクワイアー、キーボード:リック・ウェイクマン、ドラム:アラン・ホワイト。
当時の私の記憶を探ると、ドラムがビル・ブラッフォードならもっと良かったのにという印象を持っていたと思います。アラン・ホワイトはどうもスタジオ・ミュージシャンの匂いがしてロックという香りがしなかったという印象を持っていたと思います。それを割り引いても、イエスの演奏は素晴らしいもので、後まで語り草になるものでした。
場内の明かりがフェード・アウトで消えていくと、ストラビンスキーの「火の鳥」が流れてきます。徐々に曲が盛り上がった頃には、メンバー5人が暗いステージの上でスタンバイしています。
カウントもなしに、いきなりオープニングは『シベリアン・カトゥール』。全く「イエス・ソングス」の再現。生身のメンバーが演奏している姿はレコードからは全く想像できないものでした。ジョン・アンダーソンは小柄で線が細い感じ。クリス・スクワイアーはものすごい長身で190センチはゆうにありそう。リック・ウェイクマンは引きずらんばかりのスパンコールのマントをまとっています。スティーヴ・ハウは神経質そうに猫背でギターを弾いています。スティーヴはジャズぽいセミ・アコのギターを持っているものの、彼の前にはギター・スタンドが3本セットしてあり、曲の途中でも弾き分けます。
演奏は完璧に計算されているのでしょう。テープでは?と思うほど「イエス・ソングス」と同じです。要所要所に各メンバーのソロ・パートが盛り込まれていて、リック・ウェイクマンのソロは壮大かつ大袈裟でまさにこれぞプログレという感じ。スティーヴ・ハウは「イエス・ソングス」の中では『ムード・フォー・ア・デイ』1曲でしたが、他に『クラップ』も披露し、クラシック・ギターの腕前も見せつけてくれました。
演奏時間はおおよそ、2時間20分。各メンバーのソロ・パートでも全く間のびすることのない完璧なまでのイエス・ワールドでした。
イエスの曲は変則拍子も多いのですが、ベースが7拍子、ギターが5拍子で演奏するというまさに神業的なものもあり、プログレの醍醐味を十分堪能させてくれました。
ご存知のように、この後のイエスは頭デッカチになりすぎ、より難解な方向に進んでいき、メンバー同士の音楽性の違いという、ロック・バンドの定番ともいえる理由で解散を余儀なくされます。
80年代に新生イエスとして一瞬、注目を浴びるのですが、イエスが存在していた意味を大きくアピールできたのが、この時期の活動だったと思います。
私は、本当に良い時代を体験できたと思います。
■演奏曲目■
-オープニング(火の鳥)
-シベリアン・カトゥール
-アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル
-燃える朝焼け
-カラー・オブ・ザ・レインボー
-ジョン・アンダーソン・ソロ〜さくらさくら
-スティーヴ・ハウ・ソロ
〜ムード・フォー・アーデイ〜クラップ
-アンド・ユー・アンド・アイ
-危機
-リック・ウェイクマン・ソロ〜ハレルヤ
-ラウンド・アバウト
アンコール:
-ユアーズ・イズ・ノー・ディスグレイス
-スターシップ・トゥルーパー
photo by Kimio Yokohataさん
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