ヒマラヤ杉に降る雪 / ネタばれ度:★☆☆

まず最初に、とても綺麗な映像の映画だ。スローモーションのスピードとカメラ・ワークの移動スピードが同じだ。そして、そのスピードは映画の中で度々登場する雪の降るスピードと同じだ。このことが見る側に優しさ、哀しさ、緊張感を最大限に与えている。更に映像の美しさにも一役かっている。
1954年のワシントン州の小さな島で起こった殺人事件の裁判の模様がストーリーの主軸になっている。この裁判の被告は日系人男性で、当然、第二次世界大戦終了後10年も経っていないその時代背景には日本人差別という偏見が裁判の底辺にはびこっている。
この被告を傍聴席から見つめるのが、その妻のハツエ(工藤夕貴)。そして、それを更に見つめるのが新聞記者のイシュマエル(イーサン・ホーク)。この裁判がきっかけで再会したハツエとイシュマエル。映画は回想により時間軸を真珠湾奇襲攻撃の前までも遡る。移民日系人が働くイチゴ畑で幼いハツエとイシュマエルは出会い、お互いに好意を抱く。しかし、そこには人種偏見という大きな壁が存在する。そして2人にとって決定的なダメージである真珠湾攻撃が起こる。日系人の住民は全員、小さな島を去り、強制収容所に入れられる。これらの過去の回想シーンと1954年に起きた事件の発端と裁判の経過が監督のスコット・ヒックスにより巧みに操られていく。
日系人が島を去り、収容所に向かうシーンでの切なさや収容所内でのハツエの結婚式。日系人は土地を所有することができなかったという当時の法律など、この映画で初めて学ぶことも多くあった。
法廷を題材にした映画なのでストーリーについてはこの辺でやめるが、ジェシカ・ラング主演「ミュージック・ボックス」やキャシー・ベイツ主演「黙秘」と合い並ぶ法廷・人間ドラマだ。アメリカ同時テロが起きたこの時期に何でこの映画を思い出したのか自分でも分からないが、自分の引出しが自然に開いて、この映画の記憶が出てきてしまった。
ハツエ役の工藤夕貴は好演している。「アルマゲドン」で宇宙からの襲来で壊されたビルのコンクリートにあたって死んだ松田聖子やハリウッド版「ゴジラ」でゴジラに襲われた漁船にいた加藤雅也とは比べ物にならないほどの重要な役だし、もちろん「将軍」に出ただけで国際女優と言われた島田陽子(今は改名したかな)とも違う。彼女はこの映画を含めて3本のハリウッド・メジャー映画に出演するという契約を結んでいるらしいので、今後の出演策が楽しみだ。
原作は「殺人容疑」(講談社刊)でデビッド・グターソン著。
1999年作品。上映時間:127分。監督:スコット・ヒックス。
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アメリカ同時テロ雑感
エエェ〜という感じですぐにスカパーのCNNに切り替えた。どうも様子がただごとでないことはすぐに画面から伝わってきた。そうこうしているうちに2機目の突入があった。こうなると偶然の事故ではなく事件であることは明確である。
以後、事件はテロであることが判明し、世界中を震撼させていった。
このテロ事件について自分の感想なりを書こうと思ったら、それだけでひとつのサイトができてしまうことだろう。ただ、この事件を見過ごすこともできないし、自分の記憶の記録として何かを残しておきたいとも思った。
どういう手法が良いだろうと考えた結果、事件の報道などを見たり聞いたりした中で自分が「気になったこと」「思ったこと」「感じたこと」を組み立てもせずに羅列することにした。文章としてまとめるにはあまりにも文才もないし、飾りだてしないほうがこの歴史的愚行・汚点に間接遭遇した自分の気持ちを一番表す良い方法ではないかと思った。
◆ 民間人が多数亡くなり、テロの卑劣さが強調された。もちろんテロ行為は許されるべきことではないが、我が国は戦争で広島、長崎に原爆を投下され70万人近くの民間人が一瞬にして命を奪われた世界で唯一の被爆国だ。テロは悪くて戦争では良い、などとは誰も言ってもいないが被爆国の国民の反応としては少し疑問に思う面もあった。
◆ ブッシュ大統領の顔の表情が日が経つにつれて変わってきているようで気になった。最初は怒りと悲しみが同居し、どのような表情をして良いのかも分からないようで素の顔だったが、日が経つにつれて言うことも顔の表情も西部劇の保安官みたいな表情になってきていた。その表情にはちょっと怖いような気さえもした。
◆ テロの首謀者とされているオサマ・ビン・ラディン(証拠らしきものは明らかにされていない)はテロの容疑者とされているが日本の報道はオサマ・ビン・ラディン氏としている。その表現にも日本の優柔不断さが表れていると指摘する論調もあるようだ。分からないでもないが、オサマ・ビン・ラディン容疑者が適切なのだろうか。面倒ならオサマ・ビン・ラディン・メンバーにでもするしかないのか。
◆ 湾岸戦争の時に「世界のキャッシュ・ディスペンサー」と評されたことを恥じて、防衛庁長官までもが今回は同じ轍を踏まない、と発言していた。政府も具体的な支援をと無策の中で困惑している。湾岸戦争の時に日本が支援したお金は130億ドルでこれは湾岸戦争での戦争経費(経費というのか?)の5分の1にあたるらしい。これだけの支援をすることは大変なことだと思う。何故、お金を用意する支援だけで悪いのか。と強い姿勢を持てないのだろうか。
諸外国からどのように思われるか。そのことが先行して支援方法を考えるのはなんとも愚策で情けない気がする。
◆ 貿易センタービル崩壊で飲み込まれた被害者の人々の救出で、公的機関は日本では考えられない早い時期で生存者はいないであろうという声明をした。これなんかも人質事件などでのアメリカ式突入と同じでアメリカらしい気がした。
このことは決して非難ではなく、見極めが早い、ということで考え方の違いだと思う。この考え方から察するにハワイ沖で沈没させられた「えひめ丸」の乗組員救出、沈没船引き上げ、などにあまり積極的でなかったことを窺い知ることができるのではないだろうか。
アメリカは今回のテロに対して最初から報復することを前提に動いていた。議会はもちろんNATOにもその正当性を承認させ、国民にもその正当性を訴えたし、ほとんどの国民も報復に肯定的だ。そして今、現在(9月22日)報復の準備は最後の段階に入っていると言われている。しかも、報復作戦の名称は『無限の正義』。世界の警察・アメリカは世界に対して「アメリカにつくか、テロ組織につくかの選択を求める」とまで言い切っている。タリバン政権は、アメリカが証拠も出さずに報復行為に出た時は『聖戦』で応じると宗教令の発令も辞さないようだ。アメリカが売られた喧嘩に対してどのような報復をするのか。諸外国の動きは。もちろん我が日本の動きは。そして21世紀がどのように動いていくのか。この時代を目のあたりにした者として、しっかり見届けたいと思う。
思うことはたくさんあるが、欲張らず随時加えていくことにしたい。
オサマ・ビン・ラディンを擁するといわれているタリバンの本拠地アフガニスタン、隣国のパキスタンなどに居住する民間人の心情や生活。そしてアメリカの報復が始まってからの生命の保証などを考えると呑気にホームページをいじっているのも気が引けるほどだ。
それらの国を他のニュース番組とは違う目線で果敢に取材したテレビ朝日の「スクープ21」がこの世紀の事件の最中に打ち切りになった。と言っても曜日と時間帯が移動するだけのことだが、日曜日の夕方7時からの番組という意味はかなり大きかったと思う。視聴率至上主義である現在のテレビの機構からすると失敗(低視聴率)だったのだろう。最後の言葉を語る鳥越俊太郎さんは口惜しそうだった。女性ながら(この言い方もセクハラだろうな)危険を顧みずパレスチナの現状を取材した長野智子さんの姿には感動すらした。
そして「スクープ21」を現状で支えきれなかったテレビ朝日には大変失望した。すっかりニュース・エンターテイメント・ショー化してしまった「ニュース・ステーション」よりも「スクープ21」のほうが数段良識ある上質なニュース番組であったと思う。
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THE NIGHTFLY / DONALD FAGEN

ドナルド・フェイゲンを語る時にスティーリー・ダンを抜きに語ることはできない。
スティーリー・ダンは個人の名前ではない。だとしたらバンド名かとなる。バンド名とも言えるが正確にはユニットの名前だ。ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの2人によるユニットがスティーリー・ダンという名前を音楽界に残した。その形態は10CC、アラン・パーソンズ・プロジェクトなどと同じだ。
スティーリー・ダンは2人が作った楽曲を世に出す(レコード化する)ために何人もの優秀なミュージシャンを擁した。その中にはスティーリー・ダンからドゥービー・ブラザースに移って成功したジェフ・バクスターとマイケル・マクドナルドなどもいた。フェイゲン&ベッカーの色があまりにも強いので手足としてか使われていない他のメンバーは次々に脱退し76年にはいよいよもって彼ら2人だけになってしまった。そして世間的には「いよいよスティーリー・ダンも解散か?」と存続を危ぶまれた。
意地を張ったわけでもないだろうが、2人になって初めてリリースしたアルバム「THE ROYAL SCAM」では今までの作品以上にレベルの高いものとなった。そしてついにはロック史上最高傑作とまで言われている「AJA〜彩」までリリースしてしまった。その後に「ガウチョ」をリリースし、その才能はとどまるところを知らなかったが、この頃からいよいよもって本当に解散するのでは?という噂が再浮上した(結局この噂は本当になるのだが)。
この噂のさなかにレコーディングされリリースされたのが、この「NIGHTFLY」だ。全8曲の作品だが出来は最高レベルのものに仕上がっている。ちょうどAOR(アダルト・オリエンティッド・ロック)という言葉が世の流行に乗っており、その言葉もフェイゲンのアルバムを後押しした。ジャズ、フュージョンのテイストをふんだんにスパイスしたこのアルバムはスティーリー・ダン時代の作品以上に評価された。
このアルバムは、どんなシチュエーションにも合うというまったくもって便利なアルバムだ。都会の夜にも、静かな海にも、車一台見つけることもできない山道でもOK。一人でも、二人でも、雨の日も、晴れの日もOK。まさに全天候型のアルバムだ。そして何よりも相当、エッチぽいアルバムだ。
世の中殺伐としてくると「癒し系」なる言葉が重宝されるが、このアルバムは「癒し系」などという安直な言葉では語れないほど、精神的に落ち着くアルバムだし、同時に元気も出てくるアルバムだ。このアルバムを聴かないで人生を終えることは大きな損失なのではないだろうか。大袈裟ではなく、本当にそう思っている。
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